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2007年8月

映画『ファイティング・テンプテーションズ』

2 ゴスペルの映画といえばまず思い浮かぶのは『天使にラブソングを・・・』シリーズという人が多い事と思う。

しかし今回私が紹介したい映画はキューバ・グッディング・ジュニア、ビヨンセ主演の『ファイティング・テンプテーションズ』である。

ストーリー

ジョージア州の小さな町、モンテカルロ。幼いダリンは歌手の母親と伯母のサリーの家で暮らしていた。
サリーは町の人気者で、教会の聖歌隊のリーダー、母も聖歌隊で活躍していた。
ところがある日、牧師の姉、ポーリーナがプロの歌手である母をいかがわしい歌を歌っていると糾弾、聖歌隊から追い出してしまう。
やがて、母はダリンを連れて町を去る。
大人になったダリンは、ニューヨークの広告代理店で働くサラリーマン。
頭の回転が速く、口が達者な彼は、経歴にウソを並べ立て、身分を偽って詐欺まがいの人生を送ってきていた。
だが会社にウソをついていたことがバレてしまいクビに。
そんな彼の元へ、伯母の訃報が届く。葬式と遺言開示に出るようにといわれ、ダリンはモンテカルロに帰る。
サリーの遺言はダリンに聖歌隊を率いてゴスペル大会に出て欲しいというものだった・・・。

監督は『隣のヒットマン』(ブルース・ウィリス)『ホワイト・ハウス狂想曲』(エディ・マーフィー)など、絶妙なコメディで定評のあるジョナサン・リン、主演のキューバ・グッディング・ジュニアはトム・クルーズ主演の『ザ・エージェント』でアカデミー賞助演男優賞を受賞している名優であるが、彼の魅力はそんな大物に全然見えない「軽さ」と「明るさ」であると思う。

またビヨンセは言わずと知れた元「ディスティニー・チャイルド」の、人気、実力ともにNo.1の歌姫であるが、この映画で女優としての才能も開花させており、この映画に於いてビヨンセは、非常にリラックスした良い表情を見せている。

この顔ぶれだけで期待度満点であるが、この映画は期待を遥かに上回る秀作である。

なんといっても音楽が最高に良かった。私のお気に入りは、クリスチャン・ラップの先駆者T-Boneのスペイン語ラップが炸裂する"DOWN BY THE RIVERSIDE"である。メイン・ソングの"he still loves me"も良かった。

物語は、ゴスペルの原点である「教会」を中心に繰り広げられるのであるが、劇中のゴスペル大会のシーンでは、俳優ではない、本物の教会のクワイアーも多数登場しており、監督ならびに製作者のゴスペル・ミュージックに対する愛が感じられる。

またクリスチャンである私の目から見ても、劇中に展開される「教会の人間模様」は、コミカルであるけれどリアルであった。

最後になるが、『ファイティング・テンプテーションズ』(誘惑との戦い)というタイトルが良かった。この意味は作品を見てからのお楽しみである。

『ファイティング・テンプテーションズ』は、単なるコメディーではない。ゴスペル・ミュージックとその「産みの親」であるキリスト教信仰に対する、愛に満ちた映画であり、見るものに、その愛を共感させずにはおかない。

ファイティング・テンプテーションズ スペシャル・コレクターズ・エディション DVD ファイティング・テンプテーションズ スペシャル・コレクターズ・エディション

販売元:パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
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ザ・ファイティング・テンプテーションズ Music ザ・ファイティング・テンプテーションズ

アーティスト:サントラ,ビヨンセ,ミッシー・エリオット,MCライト,フリー,デスティニーズ・チャイルド,アンジー・ストーン,エディ・リヴァート Sr.,T-ボーン,ゼイン,モンテル・ジョーダン
販売元:ソニーミュージックエンタテインメント
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映画『ボーリング・フォー・コロンバイン』と『華氏911』から「恐怖」について

最近は映画のレビューばかりを書いていたが、タイトルの2作についてはあまりにも有名であるし、以下の内容についても「レビュー」と呼べる内容のものではないので、今回のカテゴリーは「独白ではなく、対話として・・・」とした。

まず第一に、この記事の読者には、必ず『ボーリング・フォー・コロンバイン』と『華氏911』の2作品を観て頂きたい。

作品の持つ「メッセージ」については、製作者であるマイケル・ムーアによる「恣意的な編集がされている」、「扇動的」、「ヤラセ」などの批判があることは事実である。

だが、「ヤラセ」については、その真偽を確かめるすべを私は持っていないし、「恣意的な編集」と「扇動的」であることについては、作品の目的と、作品ならびに製作者がおかれているコンテキスト上、当然とまでは言わないまでも、止むを得ないものであると、私は考える。

上記のような批判がすべて正当なものであったとしても、作品中でムーアが行っている「社会的洞察」は刮目(かつもく)に値する。

作品中でムーアが行っている「社会的洞察」とは、私の言葉で言えば、

何者か(おそらくアメリカの政治的支配階級)がマスメディアをコントロールし、「意図的に」国民の「恐怖」を煽り、国民を「病的な自衛的武装集団」と化している。しかもその目的は「自衛的武装(ライフルや拳銃、弾薬の購入。2重、3重の扉と頑丈な鍵の取り付け。個人用シェルターの購入など)」に伴う「消費」すなわち「経済効果」である。

これは果たしてムーアや一部の社会学者の妄想なのだろうか?

私は以前『映画『ザ・ロック』を観て、戦争と恐怖に関する論考』という記事の中で、未熟な私なりに『「個人的な争いや憎しみ」また、「人間の自己の利益の追求」の根源に「恐怖」がある』という拙い推察を行った。

私のような者が「恐怖」に注目するのだから、「この世の賢い人々」が、その「有効的な活用方法」を発明することに、なんの不思議も無いように、私には思われる。

アメリカの「賢い人々」は、「自己利益追求」の為に、善良な市民を「社会的恐怖」によってコントロールすることを発明したのだ。

しかし私は考える。「賢い人々」の「自己利益追求」とは、結局のところ、彼等が彼等自身を脅かす「恐怖」から逃避していることに過ぎないのではないだろうか。

彼等は「社会的恐怖」をコントロールすることによって、莫大な利益を手にし、それによって自らを脅かす「恐怖」からも逃れようと考え、或いは逃れられたと信じているのではないだろうか。

しかし、果たしてそれは事実だろうか。

全米ライフル協会会長のチャールトン・ヘストンや、現・アメリカ合衆国大統領ジョージ・ウォーカー・ブッシュは、果たして「恐怖」を克服しているのだろうか。またイラク戦争に賛成した、アメリカの上院議員たちはどうか。

『華氏911』の終盤、マイケル・ムーアは多数の上院議員たちにインタビューしている。

「あなたの息子を兵士としてイラクへ送りたいか?」

当然ながら、Yesと答える議員は一人もおらず、足早にその場を立ち去って行く。

本当に戦争が正しく、戦争を行いたいと願う者だけが、自ら武器を持ち、殺し合いを続ければ良い。

最後に聖書の言葉を引用したい。

終りの日に次のことが起る。主の家の山は、もろもろの山のかしらとして堅く立ち、もろもろの峰よりも高くそびえ、すべて国はこれに流れてき、

多くの民は来て言う、「さあ、われわれは主の山に登り、ヤコブの神の家へ行こう。彼はその道をわれわれに教えられる、われわれはその道に歩もう」と。律法はシオンから出、主の言葉はエルサレムから出るからである。

彼はもろもろの国のあいだにさばきを行い、多くの民のために仲裁に立たれる。こうして彼らはそのつるぎを打ちかえて、すきとし、そのやりを打ちかえて、かまとし、国は国にむかって、つるぎをあげず、彼らはもはや戦いのことを学ばない。

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華氏 911 コレクターズ・エディション DVD 華氏 911 コレクターズ・エディション

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映画 『バンディッツ』

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今回紹介する映画は『バンディッツ』(1997年ドイツ映画)同じタイトルのアメリカ映画がブルース・ウィリス、ビリー・ボブソートン主演で2001年に公開されている(こちらも私的には普通に楽しめる映画でおススメではある)がまったく関係はない。

bandits - バンディッツ

・出演: カーチャ・リーマン, ヤスミン・タバタバイ, ニコレッテ・クレビッツ, ユッタ・ホフマン
・監督: カーチャ・フォン・ガルニエ

「ラン・ローラ・ラン」、「ノッキン・オン・ヘブンズドア」など新しいタイプのドイツ映画の先駆けとなった意欲的な作品である。

ストーリー

女性刑務所の中で結成されたエマ、ルナ、エンジェル、マリーの4人組ロックバンド「バンディッツ」(意味は「悪党」)は、ある日、警察のパーティーのステージに立つための護送中脱走に成功する。ここからそれぞれに強烈な個性を持った女4人の逃亡生活が始まる。逃亡中も「バンディッツ」はバンド活動を続け、クラブで演奏したり、警官に包囲されて人質を取って逃亡したり(勿論、これはバンド活動ではない)、そのうち「バンディッツ」の曲が電波にのり、行く先々で熱烈な歓迎を受けるようになる。しかし「バンディッツ」はやはり逃亡者、やがてもう逃げ切れない瞬間が訪れる・・・。

ドイツ版「テルマ・アンド・ルイーズ」とも評される、この映画を解りやすく、一言で評してしまえば「既存の権力体制に反発する破滅型のスタイリッシュ・ロードムービー」とでも言おうか。しかし、こんな陳腐な言葉では、この映画の素晴らしさを表現できない。

ハチャメチャだがテンポのよいストーリー展開と、それによくマッチしたロック・ミュージック。ドイツ映画であるため台詞はすべてドイツ語であるが、音楽はすべて英語である。

この映画の魅力の一つは、間違いなく音楽であるが、サントラは本国ドイツは勿論、世界各国でかなり売れたようである。収録曲は全部良いが、私の特にお気に入りなのは、オープニングで流れる(サントラでは9曲目)「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」と「パペット」(別バージョンで1、15、17曲目と3曲収録)である。

この映画を一度見たなら、誰もが女性ロックバンド「バンディッツ」の熱烈なファンにならざるをえないのではないだろうか。劇中の彼女達は、それほどに魅力的である。

バンディッツ ― オリジナル・サウンドトラック Music バンディッツ ― オリジナル・サウンドトラック

アーティスト:サントラ
販売元:ユニバーサルインターナショナル
発売日:2002/05/02
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バンディッツ
DVD
バンディッツ
販売元 東芝デジタルフロンティア
定価(税込) ¥ 3,990
発売日 2002/03/22

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映画 『スモーキン・エース (SMOKIN'ACES)』

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                                                                                              『スモーキン・エース (SMOKIN'ACES)』のDVDが9/23にとうとう発売される。
『スモーキン・エース (SMOKIN'ACES)』
監督・脚本 ジョー・カーナハン
この映画は、観る前から絶対に面白いと確信していた。
それは監督・脚本のジョー・カーナハンと出演者にレイ・リオッタの名前を発見したからだ。
ジョー・カーナハンと言えば、今ハリウッドで最も期待されている新進気鋭、実力No.1(私的に)の若手映画監督であるが、日本での知名度はあまりにも低い。
カーナハンは本作品も含め、これまで3本の映画(すべて監督・脚本)を手掛けている。
第一作に当たる『ブラッド・ガッツ(BLOOD, GUTS, BULLETS AND OCTANE)』はインディペンデントで、日本ではビデオでのみリリース、後にDVDにはなっているらしい。
メジャーデビュー作となった第二作『ナーク(NARC)』も、日本での興行はいまいち振るわなかったようでDVDはリリースされているがレンタルビデオ屋で探すのはなかなか骨が折れる。
しかし、カーナハンの作品に外れは1作も無い!(私的に。。)
むしろそのすべてで度肝を抜かれてしまう。
今回の『スモーキン・エース (SMOKIN'ACES)』は、テンポの良い、ハイテンションのバイオレンス・アクションとブラック・ユーモアに溢れた、現代アメリカ的なエンターテイメント作品であると同時に、前作、前々作に展開されている独特の世界観カーナハン・ワールドとも呼べるような雰囲気を見事に踏襲している上に、多くの登場人物たちのそれぞれのストーリーを叙情的に表現している(音楽が効果的に使われている!)手腕などを見ると、確実に進化していると感じる。或いは、さらに奥深い実力をまだ「内に秘めている」ことを感じさせる。
ともあれ、本作品はカーナハンの本格的メジャーデビュー作品として、非常に重要な意味を持つ作品となることは間違いない。
非常に多くの個性が強い登場人物たちが登場するこの映画であるが、中でも私の一番のお気に入りは、ジェレミー・ピヴェン演じる、ラスベガスのスター・マジシャン、バディ・“エース”・イズラエルである。
タイトルの『スモーキン・エース』とは彼のことで、劇中“エース”は多数の凄腕の殺し屋たちに狙われるターゲットになる。そして“エース”はその登場シーンの殆どのシーンで、落ち着きなくカードを弄んでいる。
私的に、この映画の最大の見せ場は、監督カーナハン自身が、「この映画で一番感情的で、重要なシーン」と解説しているジェレミー・ピヴェン演じるバディ・“エース”・イズラエルがコンタクトレンズと格闘するシーンである。
ハイテンションなバイオレンスの吹き荒れる中に突如として“エース”・イズラエルの叙情的なシーンが挿入されている。そして、そのギャップにも関わらず、観客に抵抗を感じさせない演出の見事さに感服する。
間違いなくジョー・カーナハンは天才である。今後も天才ジョー・カーナハンから目を離せない!
スモーキン・エース DVD スモーキン・エース

販売元:ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン
発売日:2007/09/13
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Music 「スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい」オリジナル・サウンドトラック

アーティスト:サントラ,プロディジー,モーターヘッド,ストゥージズ,コモン feat.ビラル,スカル・スナップス,ニルトン・カストロ
販売元:ユニバーサルインターナショナル
発売日:2007/04/25
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DVD ブラッド・ガッツ

販売元:ハピネット・ピクチャーズ
発売日:2002/04/25
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DVD NARC ナーク スペシャル・コレクターズ・エディション

販売元:パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
発売日:2006/03/01
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映画 『茶の味』 

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『鮫肌男と桃尻女』、『PARTY7』の石井克人監督による、日本の美しい山里を舞台に、独特のユーモアとファンタスティックな映像表現を交えて繰り広げられる、異色ホームドラマ。公開は2003年。

ストーリー

山間の小さな町に住む春野一家。

 催眠研究所をやっている夫のノブオ(42)、アニメの原画マンとして復活第1作を自宅で作業中の美子(36)、高校1年生になるハジメ(16)と小学2年生の幸子(6)そしてアキラおじい(66)。ちょっとみんな変わっているが、家族仲良く気持ちの良い暮らしをしている。

 ある春、娘の幸子にちょっとした悩みが訪れた。ぼんやりしていると巨大化した自分が出現するのだ。校庭・縁側・プール・教室・・・・・。ところかまわず出現する『巨大な自分』。どうしたらいなくなってくれるんだろう。

 一方、息子のハジメは恋に悩んでいた。突風の吹くある日、美しい転校生アオイ(16)が現れたのだ。
女性恐怖症のくせに惚れっぽいハジメの恋はどこへ。

 そんな家族をやさしく見守るヒトがいた・・・。

石井克人監督作品の特徴は何と言っても、「芝居を感じさせない」独特の演出(木村拓哉と岸部一徳共演の、富士通FMVのCMでも惜しみなく発揮されている)であると思う。

また本作品は、監督自身がインタビューで語っている通り、「オレはこういうのができるんだ!」という若者のエゴのようなものを交えながら作った前2作品とは打って変わって、「こういう作品が観たい。だから自分が作る」というスタンスで作られた作品であり、新たな石井克人ワールドの幕開けを感じさせる。また作品の最後に意外な展開や、唐突なオチ(勿論ポジティブな意味での唐突さである)を付けるという構成は、前2作品から受け継いでいる。しかも、その手腕にはさらに磨きが掛かっており、本作品においては、その部分こそ、肝となっている。

この映画を観終わった直後の感想は「すごい映画を作る監督がいるもんだ!」という一言に尽きる。

ともかく、唯一無二の石井克人ワールドを体験して欲しい。

茶の味 グッドテイスト・エディション DVD 茶の味 グッドテイスト・エディション

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茶の味 Original Sound Track Music 茶の味 Original Sound Track

アーティスト:サントラ,我修院達也,藤田陽子
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オー・ヘンリー(O.Henry)

オー・ヘンリー(O.Henry 1862.9.11-1910.6.5)は日本でも広く親しまれているアメリカの小説家で、特に「短編小説の名手」として有名である。

私もまたオー・ヘンリーのファンの一人である。

オー・ヘンリーの作品の特徴は、ユーモアと機知に富んだ風刺、そして意外な結末である。そしてヘンリーの作品を読めば読むほど、彼の作家としてのバランス感覚の鋭敏さに感服せずにはいられない。すなわちそれは、「人間としてのバランス感覚」である。

優れた作家たちのすべてがそうであるように、ヘンリーは非常に「豊かな、暖かい人間理解」を持っていた。

私の勝手な思い込みであるかも知れないが、ヘンリーは、単純な「善と悪」、「勝利と敗北」、「成功と失敗」などについては、全く語らなかったと思う。

むしろヘンリーは、「運命と偶然」、「愚かさと賢明さ」、「罪と善行」、「絶望と希望」などということを混合して物語を描いた。

恐らくは、そのようなものこそ、ヘンリーが生きていた世界のリアリティーであったからではないかと思う。

ここに、岩波文庫版『オー・ヘンリー傑作選』(大津 栄一郎訳)の解説から引用したいと思う。

1904年から5年にかけての彼がもっとも多産だった時期、書いたものはすべてニューヨークものだった。電車と辻馬車のニューヨークでけんめいに生きている貧しい人々の、あるいは移民の、あるいは新興成金の、つまりニューヨーク生活の哀歓をあますところなく描きつくした――それも、悪漢や詐欺師を描く筆にいちばんよく現れているように、まだ現代の疾患を知らぬ、暖かい、優しい眼で。人生になにかを求めて得られないで悲しんでいる者には、彼の作品はかならずそのなにかを与えてくれるはずである。彼の作品は永久に残るにちがいない小さな古典である。

現代にこそオー・ヘンリーの持っていたような「現代の疾患を知らぬ、暖かい、優しい眼」を私たちは取り戻さなければななないと、私は思う。

それでは、既に「現代の社会的病理」を知ってしまっている私たちに、「現代の疾患を知らぬ」ということはどのように可能であろうか。

全くの持論ではあるが、「失ってしまった(時代の)感覚」を取り戻す最良の方法は、その感覚を持った「物語」を読むことではないかと思う。

現代の「人生になにかを求めて得られないで悲しんでいる」すべての人たちに、ぜひともオー・ヘンリーを読んで欲しい。

オー・ヘンリー傑作選 (岩波文庫 赤 330-1)

著者:オー・ヘンリー
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Book O・ヘンリ短編集 (1)

著者:O・ヘンリ,大久保 康雄
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Book O・ヘンリ短編集 (2) (新潮文庫)

著者:大久保 康雄,O・ヘンリ
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Book O・ヘンリ短編集 (3) (新潮文庫)

著者:大久保 康雄,O・ヘンリ
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映画『アバウト・シュミット』

Abs_ma

すべてを失くした日、人生最高の贈り物が届いた。

この短いコピーを書いた人物に、私は敬意を表したいと思う。このコピーがこの映画の語りたいことを、すべて語っていると言っても過言ではない。

しかし何と言っても映画は「物語」であり「人物描写」である。そこには「物語」の「語り手」と、「物語」を「演じる者」がいる。

「語り手」は原作のルイス・べグリーと監督・脚本を務めたアレクサンダー・ペインである。

「演じる者」は名優ジャック・ニコルソンである。

公開当時、アメリカのマスコミは、この映画のジャックを、過去最高の演技であると絶賛した。過去最高の演技であるかどうかは別として、ジャックの演じるシュミットは、私が知る最高の人物の一人である。

ウォーレン・シュミットはふつうの男である。この映画を見て私は、このふつうの男を、この上もなく好ましく、また愛おしく感じた。

物語の冒頭、ウォーレン・シュミット、66歳は、これまで人生のすべてを捧げてきた、世間では一流と呼ばれる保険会社を定年退職する。

それまでの人生で彼が築いて来たものとは一体何であったのか。

そして彼は、これからどこへ向かって第二の人生を歩もうというのか。

人間はちっぽけで孤独な存在である。だからこそ他者との、限り無く親しい関係を求め続けるのである。

シュミットは、物語の最後に「人生最高の贈り物」を手にする。

その瞬間私は、シュミットとともに「やさしさに包まれる体験」をし、「すがすがしい気持ち」で「暖かい涙」を流していた。

「私たち」にとっての「人生最高の贈り物」とは、いったい何なのだろうかということを考えさせられる映画である。

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