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映画『セントアンナの奇跡』 監督スパイク・リー

セントアンナの奇跡

『セントアンナの奇跡』(原題:Miracle at St. Anna)は、『マルコムX』など人種差別を題材とした作風で知られる社会派の映画監督スパイク・リーによる2008年のアメリカ映画であり、ジェームズ・マクブライドによる史実を元にした同名の小説を映画化した戦争ドラマである。

この映画は、2011年現在スパイク・リーの最新作であり、各メディアによって最高傑作とも評価されている。

物語は、物語上の「現在」である1983年のアメリカ、NYの(黒人)郵便局員ヘクターが切符を買いに来た(白人)客をドイツ製の拳銃で射殺した所から始まる。

その後、物語の主な舞台はヘクターが経験した第二次世界大戦下のイタリア、トスカーナ地方での回想に移る。

最初に書いている通り、この物語はフィクションであるが、背景に幾つかの史実を含んでいる。

第一の史実とは、1944年8月12日、イタリア、トスカーナのサンタンナ・ディ・スタッツェーマ市で起きた、反パルチザンの掃討作戦を行っていたナチス・ドイツ軍による大量虐殺である。その犠牲となった者の多くは、女性や老人、子どもであった。

第二に、第二次大戦下のイタリア戦線でドイツ軍と戦った実在の第92歩兵師団、通称“バッファロー・ソルジャー”である。1万5千人のアフリカ系アメリカ人兵士で構成された部隊であり、「バッファロー・ソルジャー」の名は、もともと南北戦争時代、アメリカ合衆国陸軍第10騎馬連隊の会員に適用されたニックネームで、その後アメリカの黒人部隊は伝統的にこの名前で呼ばれている。

そして第三の史実はフィレンツェのサンタ・トリニータ橋の消えた彫像の頭部である。サンタ・トリニータ橋には1608年にメディチ家の結婚を祝って四季の彫像が作られた。しかし、1944年8月8日、ドイツ軍によって橋は爆破され、四季の彫像の一つ、プリマヴェーラ(春)の頭部が行方不明となった。

劇中では、これらの史実を背景に、複雑な人間ドラマが展開する。

登場人物たちの置かれている立場は、アメリカの兵士、イタリア人パルチザンのメンバー、戦争に翻弄されるイタリアの一般市民、失望した元ファシスト党員、ナチス・ドイツの兵士などであり、劇中その運命が複雑に絡み合うのであるが、それらの人々の殆んどが同じキリスト教信仰を持ち、全く違うそれぞれの立場でありながらも、同じ神に祈り、救いを求めていることが意図的に強調されて描かれている。

全くの主観であるが、この映画の一つのテーマは、人間一人ひとりの価値観の違いと現実の複雑性であると感じた。

つまり、同じアメリカの黒人兵士であるから、或いはパルチザンのメンバー、ナチス・ドイツの兵士であるからといって、類似した価値観を持っているということは現実にはないのであって、むしろ、同じ背景、同じ環境に置かれたとしても、人間というのは一人ひとり、全く違った価値観や考え方を持つということである。

すべての物語がこのような現実的な人間描写をするものであったら良いと思う。

以上は私の主観的感想であったが、もう一つ、誰が観ても確かなこの映画のテーマは、タイトルにもある“奇跡”である。

私の信仰によれば、「奇跡は神が起す」ものであり、それは事実であると思う。

この作品中では、奇跡にはもう一つ、「人間の信仰が引き寄せるものである」という側面が語られている。

ここで、私にとって、作品中最も印象深かった台詞を紹介したい。

この台詞を口にしたのは、物語のキーパーソンの一人であるトレインという大柄の黒人兵士であり、彼は純朴な性格であり、非常に単純なキリスト教信仰と正義感を持っている人物である。

「財産なんかいらない 偉くなくてもいい 信じさえすればいい」

彼はプリマヴェーラ(春)の彫像の頭部を大切そうに抱きながら次のように続ける。

「神様は人間の手でこれを作った でも形と目的を与えたのは神様だ そして、これを通して 別のものもくださる」

「何だと思う?」

「“奇跡”だよ」

この映画の多くの場面は、戦争の悲惨さと残酷さを描いている。

しかし、そのような闇の光景の中に、トレインの純粋さは穏やかな光となって、見るものの心に緩やかに差し込んでくる。

この作品の中で起こった奇跡は、物語のクライマックスに起こった「一つの奇跡」だけではなかったと私は考えている。

私にとってこの映画は、「“奇跡”とは一体何であるのか?」ということを考えさせられた、生涯忘れることのできない作品の一つとなった。

そこで私は、改めてこの作品はスパイク・リー監督の最高傑作であると宣言したい。

この作品で、彼は間違いなく“巨匠”と呼ばれる存在になったと。

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